屋 根 裏 画 廊 特 別 作 品
 編集:くれ はるお
KEIKO TSURUOKA
  鶴岡 慶子 〜感情に訴えない美意識〜
作家の公式ホームページをご覧下さい。
 金色の火焔に縁取られた暗黒の円形は超高密度の球体、ブラックホールを思わせ、そこに吸い寄せられるいくつもの光の渦は金属的な輝きを放ちながら躍動感に溢れて乱舞する。

 一見して人間臭さからは縁遠い印象を受け、それが皮肉にも清々しい気分を呼び起こし、暫く見入っているうちに光の渦の無機質的美しさに囚われてしまいそうになる。何故この美しさに気を取られるのかいぶかしく思いながらも渦の回転に眼をやっていると不意にこの原因は作品の強さと作家の美意識そのものにあることに気付いた。

 どの様な種類の作品であってもそこに込められている感情が大きいほど受け取る側の感情に委ねる比率は大きくなり、これを(語弊があるかもしれないが)より人間臭い作品と言っても差し支えないだろう。優れた芸術家とはこの人間臭さの匙加減を微妙に使い分ける仕事人である場合もある。

 この人間臭さを排除しようとする時、すなわち感情を抑制した場合、それは受け取る側の感情に委ねることができないわけで、それを鑑賞に耐え得るものにするには強靭な存在感を持たせることが不可欠となる。具体的には鑑賞する側の感情に直接訴えること無しにその存在を認めさせ、更に芸術家としての誇りにかけて鑑賞する側の内面にその足跡を残さなければならないということである。

 作者はこの作業をほぼ完璧にやってのけた。無機的な光沢を放つ光の渦が縦横に乱舞する世界で作者は自分だけの色彩感覚で思うがままの色をちりばめた。ここにあるのは手垢にまみれた人間感情以前の作家の美意識が作り上げた世界である。だから作家の純粋な美意識そのものと言っても差し支えないだろう。これを見るものは無機的な光の渦にはじめは途惑うだろうが、まもなく飲み込まれてしまうような印象を受けるかもしれない、このとき無機的な光の渦によって自分の中に新しい美意識が芽生える感覚を覚える筈だ。

 これは作者の美意識が実現した完璧な創造行為である。(文:くれ はるおK )

『誕生』
誕生
『再生』
再生
そんざいのりゆう
存在の理由
誕生
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