色彩に溢れた線や図形が躍動し、動き回る先々で自在に変貌しさらに美しい色彩を撒き散らす。この躍動は無邪気な天使の戯れる様を思わせる程に魅力に富んでいる。
ここにある図形は特に何かを想起させるものではなく、それ自体が作者の筆先から生じた純粋な実在である。また背後の空間も作者が創出したものであり、これを無理やり宇宙空間やその他の存在にあてはめて考えたくはない。ここにある世界は全てが作者の創造物であり、これらを統制するのは作者の美意識だけである。
この作品を凝視する時、それぞれの図形が独自の音色を奏で、それらはやがて重奏音となって目の前の空気を振動させる。図形と同様に何ものをも彷彿させない純音楽的響きは作品を見るものの脳内に心地良く伝播し、やがてひとつのキーワードを示唆する。それは「自由」である。
作品としてキャンバス上に描かれたのは実は作者の想定する空間を自由に動き回る魂の軌跡である。この作者の魂に自由が保証されていなければ躍動感に満ちた図形は当然現れない。自由を束縛された時、円形は太陽や月や星その他丸いもののイメージに固着させてしまうかもしれないし、矩形も同様に現実に存在する矩形の固形物に入れ替わってしまうかもしれない。自由を維持することによって一本の線にも、数本の線から成る図形にも実在としての躍動感が注ぎ込まれるのだ。
但し、作者の魂に自由を保証するのは他でもない作者自身である。つまり作者が芸術家としての創造行為を祈念した時、眼前の虚空に自由を得て戯れる魂の軌跡が現れるのだ。 (文:くれ はるお)
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